一方で1950年代半ば前衛的ジャズに取り組んでいた、1人のベーシストがいる。チャールス・ミンガスである。
1956年1月に「直立猿人を」を録音。その異彩性から多くのジャズファンに驚きを与えたが、衝撃性だけが強調されて肝心の中身が理解されていたかどうかは疑問である。
僕は冒頭の「直立猿人」などは雑音にしか聴こえない。初めて聴いた時は確かに後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受けたが、衝撃的音楽と言う物は、また飽きるのも早いもので、さっきも述べたように、ただだの雑音になってしまった。
特筆すべきは「直立猿人」以降の曲である。2曲目の「霧の日」はJR・モンテローズのテナーがほとばしり、編曲も工夫されていて、ロンドンの街を思い浮かばせてくれる。
これほど素晴らしい演奏を聴かせてくれるのはミンガスをおいて、他にはいない。
続く「ジャッキーの肖像は」ミンガスらしい曲に仕上がっている。ジャッキー・マクリーン(as)もうねるような演奏を披露してくれる。
問題はエピローグの最終曲だ。「ラヴ・チャント」と言う曲だが、このアルバムで「直立猿人」よりも、ミンガスは力をそそいで作曲したのではないだろうか。
実にシンプルにして、計算された編曲は見事としか言いようがない。