モダン・ジャズ・ピアノの創始者バド・パウエルの全盛期は1947年~51年あたりまでか。
その後は体調の不良もあり指は重く、思うようにピアノを弾けないのがもどかしそうだ。しかし僕にはかえって1950年代中期のパウエルが好きだ。
「ムーズ」はヴァーヴレーベルに1954年~55年にかけて録音されたアルバムだが、音が重苦しく、かなりの力を入れて鍵盤を叩いている感じだ。
弾いているという感覚ではない。力が入らずピアノを上手く操れないのだ。ミスタッチも多いが、だからと言ってパウエルが急にピアノが下手になったわけではない。
神の手と言われた、ルーストセッションからは考えられないレベルだが、それでもパウエルのジャズにかける思いがしみじみと伝わってくる。
1曲目の「ヴァーモントの月」には驚かされる。冒頭からこのアルバムの重苦しさは始まっているのだ。どうしても明るい気分になれない。
メジャー調の曲の「ア・フォギー・デイ」など明るそうに聴こえるが、水面下では濁った水が渦巻いているような暗さだ。
パウエル・ファンの僕としては全盛期よりも「ムーズ」のパウエルの方が人間味があって好きなのだが。